自販機に、コーンポタージュが入っている。
私の住んでいる地方では、寒い時期にしか、自販機に入っていない。
季節の訪れをこのことでも感じていたものである。
駅の自販機にコーンポタージュが入ったのを見つけたら、
ああ、冬が来るなあ。
なくなれば、もう春なんだなあと。
販売が終わったのを知ると、春の訪れをうれしくもあり、
ほっと一息タイムの修了がさみしくもあり。
働いている頃、私は電車通勤だった。
寒い季節、
仕事帰りの暗い駅のホームで、
自販機でコーンポタージュを買って、
おしりが冷たいから、ベンチには座らず、
冷たい手をあたためてから、
ゆっくり飲むのが毎晩の習慣だった。
今思えば、
立ち飲みなんてお行儀の悪いことを、
平気でしていたのね。
今日も遅くなっちゃったなあ。
寒いよ、勘弁してよ。
ホームに待合室がないって、不親切だよな。
帰ってからも持ち帰り仕事か。
馬鹿みたいだなあ。
今日の会議、へんちくりんだったよな。
どうして、あの方は、ああなんでしょうねえ。
明日も会うから、我慢したけど、もっと言いたかったなあ。
あの人のあのやり方は、真似すべきだな。
なんだかんだ言っても、今日も頑張ったじゃん、私。
しかし、コーンポタージュは、おいしいよな。
仕事の後にいっぱいひっかけてるおやじと同じ感覚かも。
こんな風に、コーンポタージュ缶にお世話になっていた。
とにかく、癖になるほどおいしかった。
この環境で飲むから、なおさらかも。
メーカーさんによって、微妙に粒の感じとか濃さとかが違って、
いくつかの自販機を交代で使ってみたりもした。
こんな毎日を、冬の間続け、それを何年も続け。
私にとってのコーンポタージュは、そういうものだった。
缶入りのポータージュだから、カンポタージュなんて、勝手に呼んでいた。
たまたま帰りが一緒になった同僚に勧めたけど、
思ったより反応が鈍くて、がっかりしたこともあった。
なぜ、このおいしさが伝わらないんだ、鈍いヤツ、なんて。
人の好みは、さまざまである。
先日、久しぶりに電車を使って出かけた時に、
自販機のコーンポタージュが目に入ったので、
懐かしさも手伝って、飲んでみた。
ベンチに座って、ゆっくりと。
かつての夜のホームを思い浮かべて、
ゆったり気分で飲んだ。
暗くないし、
疲れてないし、
そんなに寒くもないし、
仕事からの解放感もないし。
そんな、条件違いがあったからだろう。
あのときの抜群のおいしさは、なかった。
ただ、普通においしいだけだった。
もう、あの、ほっとした感が味付けになっている
カンポタージュの味は、
味わえないんだなあと、
少し寂しくなった。
★★今日もおいでいただき、ありがとうございます★★
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