「あのね、手押しの車を買おうと思うの」
母が、そう言いだした。
以前、私が勧めた時には、
そんな格好の悪いものは使いたくない。
とかたくなに拒否していたのに。
先日行った整骨院の先生に、
優しくアドバイスされたのだ。
これからも自分の脚で歩きたいのなら、
手押しの車を使ったほうが、杖より足のためにはいいですよ。
って、勧められたのだ。
娘の言うことには、従わない母も、
信頼している先生のおっしゃることなら、従う。
ちょっとかわいくない。
杖じゃ心もとないから、もうシルバーカーにしたら、
という言い方でなくて、
これからも歩くためには、シルバーカーの方がいい。
う~~ん、さすが、プロの勧め方は違う。
そうして、街に買い物にでかけたついでに、
デパートの売り場で、シルバーカーに触ってみた。
図々しくも、そこにあるものを、いくつも試させていただいた。
片っ端から、私が出してきては、母が試す。
熱心さに店員さんもいろいろ説明してくださった。
よい点悪い点も、教えてくださった。
実際押してみないとわからない。
幅とか、高さ。
押したときの軽さ。
タイヤの可動域。
座面の広さ。
物入れ部分の容積。
買い物かごを座面の上に乗せられるタイプもあった。
柄も、いろいろ。
私は北欧風がたいそう気に入ったが、私が使うのではないので、即却下。
赤が主のきれいな花柄に決定した。
母の思いは、もちろん、いつまでも自分の脚で歩きたい。
当たり前の希望だ。
そのための補助具が必要だ、見栄を張っている場合ではない。
それがわかる母は、まだきちんとした判断力があると思うとうれしかった。
結局その場で母曰く「マイカー」を買った。
そのまま押して帰って来た。
デパートの中では、
ありゃ、階段だめだね。
売り場の狭いところも歩きにくいね。
物産展は、無理そうだね。
帰り道。
途中で、段差に苦労したり、曲がり方が難しかったり。
狭い歩道で、向こうからくる人をよけてあげて、自分が身動きできなくなったり。
歩道は、端が下がっていて、車が平らに押せない。
下がっている方に、だんだん寄って行ってしまう。
まだまだ運転初心者。
しばらくは、付き添いつきでのマイカー買い物となりそうだ。
ゆっくりゆっくり歩く母。
お供の私は、横から日傘を差しかける。
こんなこと自分がするって思いもしなかったなあ。
もっとドライかと思ってた。
荷物入れにたくさんの道具を入れて、
お友だちの家に
手芸を習いに出かけた母。
帰ってきて、
みんなが、
いい車を買ったね、いい柄だね、
って褒めてくれた。
とご機嫌だった。
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