病院から帰ると、こたつの上に、皮をむいて少し乾いてしまったみかんが半分置いてあった。
まったくもう、食べかけをそのままにしてさあ。
このくらい残すなら、食べちゃえばいいのに。
なんでも、やりっぱなしが多いんだよなあ、最近。
仕方ないか、そういう年だもんなあ。
年の割には、頑張っていると思うし。
近所のおじさんが、スーパーおばあちゃんだね、って言ってたし。
でも、こたつに入ってテレビを見ている母を心の中で責めている私。
口には出さないが、ぶすっとした態度で、こたつに入った。
母は、テレビの画面から目をそらさないので、私の不機嫌は伝わってはいないようだった。
最近、家にいることが多くなった私は、なにかと口うるさくなってきたなあと自覚しているので、こらえられる些細なことは、流すようにしている。
私だって、母にいっぱい迷惑かけているから、お互いさまなんだから。
乾いた半分のみかんをこたつの上に置いたまま、病院での医者の言葉を母に伝え始めた。
浦ちゃん先生は、3つの検査の結果から、体の不調は深刻なものでなくそれほど心配しないでいいよと言ってくださった。
こちらから尋ねたわけじゃないのに、ライブも飲み会も行っていいよって、言ってくださった。あんまり興奮しちゃだめだよ、の注意もあったけど。
私の体がよくなってきているということで、母は安心したようだ。
12000歩も歩いてきたけどどこもなんともないよと話すと、ほんとうにほっとした顔をしてくれた。
よかったねえ、と言って、乾いたみかんを私の方に差し出してきた。
「あのね、これ、うちで採れたみかんなの。食べたらね、とっても甘かったの。だからクレちゃんにも食べさせようと思って、とっておいたよ」
うれしそうに、声が弾んでいた。
わが家の小さいみかんの木は、ここ数年は実をつけず、つけても小さいまま落ちてしまったりしていて、今年久しぶりに、たったの3つ、実をつけたのだ。
その中の、一番大きいみかんをむいて食べたのだそうだ。
思いのほか甘くて、私にも味わわせたいと。
その気持ちが、とてもありがたかった。
この気持ちが、私を元気にしてくれたんだと思った。
帰ってきて、最初に小言を言わなくてよかった。
甘いみかんをゆっくり食べながら、いつもはちょっと面倒だなと思う母の繰り返しの話を、静かな気もちで聴いていた。
昨日は、そんな日だった。
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